入学式 式辞
晴天に恵まれ、桜も満開のよき日に、京都経済短期大学の二〇一八年度の入学式を挙行できることをうれしく思います。
新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。
新入生の、保護者・保証人のみなさま、おめでとうございます。
ご来賓のみなさま、ご多用のところご臨席をたまわり、厚くお礼を申し上げます。
京都経済短期大学は、一九九三年にこの地に開学いたしました。入学定員二〇〇名のところ、本日二五九名の新入生を迎えられることをうれしく思います。私たち教職員一同は、新入生のみなさんと出会えたことに感謝しています。
京都経済短期大学は、日本の短期大学の中で唯一「経済」という名称がついています。経済とは、「社会生活を営むのに必要な生産・消費・売買などの基本的な活動」を指しています。みなさんは、この短期大学で、これから生きていくために必要な世の中の仕組みについて広く深く学んでいくことになります。
ところで「経済学」とは何でしょうか。世の中のお金の動きを数字で扱い、最大とか効率とか、数学的な考え方ではないかと理解している人もいるかもしれません。しかし、「学」とついているものは、本質的に生きるために必要な考え方を提供しているのです。本日は、二つのキーワードを例にして、考えてみたいと思います。
まず、一つ目は、「いまやれることは一つしかない」ということです。いま、みなさんはいま入学式に出席しています。したがって、甲子園球場に行ってある高校の応援することはできません。「いま」というのをこの瞬間と理解すれば、甲子園球場に行くのをあきらめて、入学式参加を選択していることになります。また、みなさんは別の大学の入学式に出席することは、たとえ式の日が多少違っていたとしても、できません。つまり、人生にはさまざまな選択肢があり、その選択肢から常にそのときすることを選択することによって、選ばなかったもの、他に犠牲になるものがあるとということを意味しています。
何かを選択すれば、選択しない何かを犠牲にしなければなりません。ある行動を選択した場合に、実際に選択しなかった他の行動をした場合に得られたであろう利益が犠牲になっているのです。この得られなかった利益を、損失と捉え、これを経済学では、「機会費用」または「オポチュニティーコスト」と呼びます。機会費用という考え方は、「いまやれることは一つしかない」ので、何かするということは、同時に何かを犠牲にしているということを意味しているのです。
二つ目は、「終わってしまったことにはくよくよしない」ということです。過去に選択したことで、後で間違っていたと感じても、過去に戻って選択を変えることはできません。変えることのできない過去のことはくよくよ考えないということです。
例えば、プロ野球を見に行ったとしましょう。お金と時間をかけて、見に行ったのに、序盤からワンサイドゲーム、お気に入りだった選手も早々に交代してしまったとしましょう。このとき、せっかくお金を払って、時間をかけて見に来たのだから、試合終了まで観戦するという考え方もあるでしょう。しかし、すでに払った入場料と交通費、そして時間は、決して返ってきません。「せっかくきたのだから」という過去の選択を理由にして、好きな選手の出ない、つまらない試合を見続けることの方が無駄なのです。過去に支払って、もう回収できない費用を過剰に意識することによって、さらに無駄な選択をしていくことにつながるのです。
このもう返ってこない損失を、経済学では「埋没費用」または「サンクコスト」と呼びます。埋没費用という考え方は、「終わってしまったことにはくよくよせず」、つねに今ある選択肢を冷静に考えてほしいということを意味しているのです。
ご紹介した二つの経済学のキーワード「いまやれることは一つしかない」という「機会費用」と、「終わってしまったことにはくよくよしない」という「埋没費用」は、一つの共通したメッセージを持っています。それは、「いまを大切にして生きてください」ということです。
しかし、いまを大切にすることは、過去と未来に想いをはせることも重要です。過去の教訓から学び、未来の展望を見据えて、いま自分が何をすべきかに注力することの重要性を理解してほしいのです。
ここまで経済学の話をしてきましたが、私の専門の環境学では、「Think Globally, Act Locally」というキーワードがあります。これは、「地球規模で考え、地域で行動せよ」という意味です。先ほどの経済学との関連がみなさんにはもう理解できると思います。自分から見て、時間的にも空間的にも遠くの方を見据えながらも、いま、ここで何をすべきかを大事にしなさいということなのです。
時間的には、百年後の地球、十年後の日本、五年後の自分などを意識してください。空間的には、地球上の生き物、世界の国々、地域の人々、家族、友達などを意識してください。それらの中で、自分がすべきことを考え、ぜひ「いまを大切にして生きてください」。
京都経済短期大学を経営する学校法人明徳学園のミッションは、「働く人づくり」をもじって「「傍」を「楽」にするひとづくり」です。自分のまわりのこと、未来のことを考えて、少しでもまわりに、そして未来に貢献できるよう、生きてください。
自分自身の行動や考え方によって、少しでもまわりが良くなれば、そして少しでも未来が良くなれば、必ず自分自身も良くなっていくのです。そう信じられる人を育てることが、本学の使命だと思っています。
最後になりましたが、新入生のみなさんが、この京都経済短期大学で過ごす時間を大切にしてほしいと願っています。そして、その大切な時間を、私たち教職員も共有できることに深く感謝して、入学式の式辞といたします。
二〇一八年四月二日
京都経済短期大学
学長 加藤 悟